Biz.IDのブロガー応援イベント「MozillaのCEOに直接聞く? 『Firefox 3』のあんなこと、こんなこと」にいってきました。
その一
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0806/25/news105.html
その二
http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0807/01/news052.html
Johnとの対話の中で見えてきた答えとしては、「管理はしていないが、推進はしている。」ということがあります。これは究極的には経営の未来(ゲイリー・ハメル著)でも述べられていたボトムアップ型のアプローチそのものではないか、と思いました。以下、今回のイベントでのまとめと、考察について書いてみます。
(質問)プロダクトマネジメントという観点から、あなたはどうやってロードマップをつくっているのか?
ジョンの意見としては、
- 「このプロジェクトの制御というのは、2億人がつかっているので、やったことがないことだとおもう」
- 「私の仕事は、私たちのミッションがなんなのか、というのを開発コミュニティリーダーにつたえていくこと。そしてコミュニティリーダーは、ミッションを完全に理解したうえで、開発コミュニティをリードしていく。」
- 「各々の開発ジャンルでリーダーが存在しているので、その人たちとディスカッションをしたりする。ときに話にのったりのらなかったり。まぁいろいろな形があるね」
- 「もしこのOSSの開発参加したいならば、wikiに記載してしまえばいいのではないか。なにか問題があったら差し戻しされてしまうけれども。」
- 「次にどんな機能があるのか、自分はまったくきめていない。だれもそんなこと聞いてこないしね。」
結局のところ、開発計画を決めたり、決裁する、というトップダウン的なアプローチが存在しない、というのが特徴的です。この後も彼は主張するのが、あくまでコミュニケーションを通じて、物事をアレンジし、推進していく、という姿勢を崩さないことが最大のポイントでした。
ちなみにMozillaのミッションとしては
「誰にでも開かれた参加型のWEBを一緒につくっていけるようにサポートすること」"support mozilla's mission to create together an open participatory web for everyone"
とのこと。
さらに自分もアグレッシブな質問をしてみた。
(質問)んじゃあ、結局CEOとはいっても、なんの仕事をしているの?
とりあえず原文でいうと"hire people who's competing."が最初に飛び出してきた。つまり、突き抜けた人を雇う、集める、というのが最大の焦点となっている。
さらには、先ほども述べたが、コミュニケーションという観点で、内部の人、外部の人と対話をつづけていく姿勢"communicate with inside/out people"が特徴的でした。
- 「今は1億ドルのキャッシュは確かに存在するが、我々は非営利組織なので、IPOでの資金調達ができるというわけではない。」
- 「プロダクトに近い(closeな)人たちとのコミュニケーションをするのが自分の仕事だ。」
- 「いわゆる世間でいう、CEOというのは、ちょっとオーバーバリュード(役割を与えられすぎている。)だったと思う。」
- 私見ですが、このオーバーバリュードというのは、組織が自発的に動く時の最大生産量を抑制するのに十分なほどの機能が、CEOに与えられてしまっている、ということを暗示していると思いました。
- 「あとは苦情受付係だね」(会場笑い)
ある種、カリスマ性がない、という点で、アップルやオラクルとは対極をなしているなぁ、と思いました。今回の対談では、アップルの秘密主義さ(プロダクトは大好きだけど、ライセンスがアグレッシブなまでに閉鎖的な点、等)に対しての対比も考えると、ある種カリスマによってひっぱられている手段というのはどうしても、ちょっと秘密主義によってしまったりする、という傾向があるのかもしれません。(結果としてそれが組織内部では結束力になっているケースもあります)
競合とのバランスに対する考え方について
- 「別に70%のシェアになるつもりになるつもりもない。メジャーになると、まずすくなくとも君たちはfirefoxを使わないでしょ。」
- 「常に競合(Oposition party)がいたほうがよくなっていくよね。ずっと同じものが支配していたら、進歩はなくなってしまう。それは日本の政治にもいえるよね。」
- 「テクノロジのエバァンジェリズム、標準化についてもgoogle gearsやappleも勝手に基準をきめて、進めている。それらがただしいのかどうかはわからないけど、いずれにせよ自分たちにとっていい刺激(good pressure)だ。」
- 「IEはNetscapeを殺してしまったけど、web は当時よりももっと重要になったのでもはや今では、IEがFirefoxを殺すような事態にはならないところにきている。自分は他のブラウザーを殺すつもりはない。」
常に競合がいたほうが正常な進化ができる、独占されるべきではないし、firefoxが独占するつもりもない、ということでしょう。きわめてまっとうな話です。
ちなみに開発プロセスについて、「世界の意見としてはオープンな開発プロセス、スタンダードが、もっともっと重要になってきている。」とのこと。今後OSSがはいりこんでいく箇所としては、Adobeという単一の一社に独占されている、ビデオやアニメーションの領域になっていくと予想していました。Firefoxの競合優位性や、OSSをサポートする力の根拠としては、そういったオープンなテクノロジをアドオンであったり、OSSの開発プロセスですごく早く吸収できてしまう点にあるなぁと思いました。
世界への展開について
- ヨーロッパではfirefoxはメインストリームになっている(1/3の人はつかっている)ようです。
- 彼らは150人でつくっているのにそれだけ普及しているのには純粋に驚いているようでした。
- 翻って日本やアメリカだと10 - 20%なので、まだ戦いの段階だからこそダウンロードデイの企画があったようです。ちなみにFirefoxが最後に普及する順に、米国、日本、中国だとおもっているみたいです。(つまりヨーロッパや、発展途上国(ただしそれにアクセスできる人の範囲で)のほうが急速に展開するということです)
また、おもしろかったのが、発展途上国の話で、まだまだOSSは知られていない・認知が足りなけれども、いったんOSSが知られてしまえば、OSSは競合優位性が高い(費用とかしがらみがないからだと思います)からすごく早く普及するという点でした。
- これは、「ネクスト・マーケット」(C・K・ブラハード著)でいう、一旦民衆が理解すれば発展途上国では急速に拡大していく。という形態のそれをまさに彷彿とさせるものがありました。
- とはいえ、発展途上国では、digital divideが問題となっているのでそこは解決すべき問題として認識しているようです。
そして、、
ボトムアップ形式によるマスコラボレーションによって成果を出すための基本的な姿勢がなんだかすこし垣間見えたような気がして、ちょっとだけ自信がもてた、そんな印象に残る日でした。